三連水車の課外授業
以下は、山田堰土地改良区徳永事務局長の説明です。
(1)概要
朝倉地域の農業を支えるかんがい施設は、筑後川から取水する山田堰、その水を農地に送る堀川用水、そして堀川用水より高所の水田に送水するための菱野の三連水車を始めとした3群7基の水車群で構成されており、これらの施設により筑後川から約553,000m3/日を取水し、652haの農地をかんがいしている。
(2)山田堰の概要・特徴
山田堰は、堰長320m、堰高3mの堰で、総面積25,370m2の広さを持つ日本で唯一の「傾斜堰床式石張堰」であり、九州地方最大の河川である筑後川の水圧と激流に耐えうる精巧かつ堅牢な構造で、南舟通し、中舟通し、土砂吐きの3つの水路が設けられており、川が運んでくる土砂は、取水門に流れ込む前に土砂吐きから排出されるとともに、当時盛んだった舟運をさまたげず、魚が容易に移動できるよう生態系にも配慮したつくりとなっている。山田堰の巨石を敷き詰めた石積みは、1790年の建設当時は自然石を巧みに積み上げた「空石積み」であったが、1980年に起きた水害からの修復工事によって石と石の間をセメントで固定する「練石積み」に変更されているものの、今もなお建設当時の原形を維持している。なお、アフガニスタンとパキスタンで活動している福岡市の市民団体、PMS(平和医療団・日本)=ペシャワール会が、アフガニスタン東部のクナール州を流れるインダス川の支流クナール川に山田堰をモデルとした石堰を築造し、2010年にマルワリード用水路を開通させて3,000haもの荒野を農地に変えた。このように、朝倉の先人たちの知恵とたゆまない努力が時代と場所を超え、アフガニスタンの人々を救ったことで、山田堰は国内外に広く知られる存在となっている。
(3)堀川用水の概要・特徴
堀川用水は、山田堰から取水した筑後川の水を農地に送るために開削された農業用水路である。1663年に開削された当時の全長は約8kmであったが、その後より多くの水をより遠くに運ぶために延長されてきた結果、現在総延長、本線4.6km、幹線6.2km、支線77.3km 合計88.1kmにも達している。現在の構造は、最大幅4m、高さ2mのコンクリート三面張水路であるが、水車の周辺においては水路の側壁を景観に配慮した玉石積みとなっている。なお、堀川用水は2006年、我が国の農業を支えてきた代表的な用水として「疏水百選」に選定されている。
(4)水車群の概要・特徴
水車群は三連水車1基・二連水車2基であり、全て堀川用水に設置されており、水車群全体の揚水量約20,400m3/日により、堀川用水よりも高所にある農地35haをかんがいしている。これらの水車群は、4~5m程度の直径の木製の水車と柄杓で構成されており、堀川用水の流水を利用した水力自動回転式、すなわち、水の流れによって水車が回転するとともに、水車に設置している柄杓で水を汲み上げているものであり、自然エネルギーにより揚水するものである。全国で水車が廃止されポンプに変わる中、この朝倉地域でも、水車作りの特技を持つ工匠が少なくなるなど、水車群の存続について困難な場面もあったものの、先人の残した歴史的農業遺産を守ろうと、農家の理解により224年もの間存続しているものである。なお、水車群は、1990年、堀川用水とあわせて国の史跡に指定されている。